腰痛 (3)

〜 股関節の柔軟性 〜

2008.11.01

  

 

腰痛患者は、股関節が異常に硬い。股関節は球関節であり、誰でもグルングルン動くのが普通である。

私が、腰痛に一番効果があったのが、股関節の柔軟性だ

床に足を伸ばして座り、足を左右に開いていく開脚前屈だ。お相撲さんが、股割りといってやっているあれだ。

これは私の経験上、腰痛患者には間違いなく重要で非常に効果的な訓練だ。

私は、「股関節の柔らかい人に腰痛持ちはいない」という少し大げさな話をテレビで聞いた事で、開脚をするようになった。

股関節は、球関節だ。骨盤に大腿骨の球が面しているだけの構造であるため、本当は誰でもグリグリ回り、バレリーナのように前から後ろへ抜けるものなのだ。

 

図 3-1

 

赤ちゃんの頃は、誰でもガバガバ動いて開いている。赤ちゃんはベットに寝てフニャフニャ言っている時でも、むしろ足を開く方が楽かのように開きっぱなしだ。

赤ちゃんのオムツを替えるのに、腰痛患者が苦手とする足をピーンと伸ばした状態で足を動かしても、ぎっくり腰も起こさなければ、嫌がりもしないどころか喜んでいる。

しかし、普通の人は歩けるようになる頃から足を開く動作をだんだんしなくなるので、大人になるにつれて硬くなり、動かなくなっていく。

筋肉が癒着してくるのだ(医学的に癒着していると言えるか分からないが、イメージとしては筋肉が硬いのではなく、骨に筋肉が癒着している)。その癒着を剥がす作業をするのだ。

「股関節が硬いとなぜ腰痛になるのか?」は、その私が見たテレビでやっていた。

 

図 3-2

 

「腰痛持ちの自分の立ち姿勢とよく似ている」と自認するのではないだろうか?

股関節が硬い事で、直立した時に腰が太もも側に引っ張られて、腰を落した姿勢になってしまうために、まっすぐ立つ事が出来ないのだ。

この「腰が落ちる状態」がちょうど腰椎に上半身の重みが乗った状態であり、この負荷が腰を痛める原因だ。腰を痛めると筋肉が硬直するため、まっすぐにはさらに立てなくなる。悪循環だ。

私も子供の頃から、「姿勢が悪い。腰を落して立つな。」と言われてきたが、腰を落さずにまっすぐ立てといわれても、その正しい姿勢の方が疲れて立ってられなかったが、それは股関節の硬さから来ていた。

原因を取り除かずして、「まっすぐ立つ」という結果は得られるはずもない。

テレビでは、ここまでしかやっていなかったが、私はもう少し筋肉を詳しく捉えてみた。

「腰と大腿骨を結ぶ大腰筋」という筋肉がある。またその周辺には、骨盤と大腿骨を結ぶ筋肉があり、これらを腸腰筋と呼ぶ筋肉がある。

 

図 3-3

 

図 3-3を見ると分かるように背骨と大腿骨を結ぶ筋肉を使ってまっすぐ立つと、腸腰筋に支えられて腰椎の椎間板は中に浮くような状態になり負荷が小さくなる。

実際に、うまくまっすぐ立てるようになると、腰(お尻と腰の境目。骨盤の上ライン部分)の所に直接重さが加わらないため、腰痛を起こしている位置に負荷がかからず楽だ。

しかし、股関節が硬いと、図 3-2のように後ろ側(太もも側)に引っ張られれてしまうために腸腰筋群がうまく使えず、腰椎で上半身の重みを支える事になってしまう。

それを避ける為に、股関節の柔軟性が必要なのだ。腰を太もも側(後ろ側)に引っ張る筋肉の張りを辞めさせる必要があるのだ。

その手段が、開脚前屈の訓練なのだ。最初は「前屈」は必要ない。「開脚だけ」でよい。

 

図 3-4

 

最初は、くまさんが座ったように「太もも - お尻 - 腰」のラインが、まるーく猫背状に丸まってしまう。股関節が硬い人は、最初から腰が後ろ(太もも側)に引っ張られているので、くまさんが座ったように腰が丸まってしまうのだ。

この腰の筋肉の張りが、太ももの裏を伝って膝の裏の腱を引っ張るので、左右の足の開く角度も60度〜90度が限界のはずだ。

腰痛のない健康な腰を持っている人は、骨盤を立てて座る事が出来る。背骨を反るのではない。骨盤を立てるのである。その結果、背骨も上に伸びるのである。

骨盤が寝ている状態で腰を反って、外見上、背中が伸びているようにしたとしても、それは背中が伸びただけで、腰は丸まったままだ。

背筋を伸ばすのではない。骨盤を立てるのだ。

くまさん型の人が骨盤を立てようとしても立たない。背骨や腰骨を反ったりして骨盤を立てようとしても立たない所か、腰を反ったらむしろ危険だ。

 

図 3-5

 

股関節が硬いので骨盤を立てようにも、腰痛持ちは太もも側に引っ張られて骨盤が寝てしまい、お尻のえくぼの部分で座る事しかできないが、骨盤を立てて座れるようになると、図 3-5の赤丸部分で座る事が出来るようになる。

左右のお尻と太ももの境目を手で触るとある、(骨盤の)骨の出っ張りだ。この出っ張りで座れるようになると、腰への負担が少なくなり、腰痛が快方へ向かう。

股関節の硬い人は、立っていても座っていても背骨が太もも側に引っ張られているので、腰に負担がかかり腰痛になる。だから、骨盤を立てて座れるように股関節をやわらかくする必要があるのだ。

当初は、「自分には絶対無理だ」と思うだろうが、そんな事は絶対ない。実際不器用なこの私も60度くらいだったものが、160〜170度くらいは開くようになったし、先に述べたように股関節は球関節なので、骨に異常があるといったような問題を抱えていない限り、構造上不可能はありえない。

私も当初は信じられなかったのだが、他に良い攻めがなかったので、上級者に教えを請いながら、ひたすらコツコツと開脚を訓練した。

くまさん座りのような腰の丸まりは良くないので、座布団にお尻だけを乗せて開脚をすると骨盤が立ち、背筋もまっすぐ伸びて良い(少し前傾姿勢になる感じ)。図 3-5の赤丸の骨で上半身の重さを支えるように座る。お尻のえくぼで支えているうちは腰痛は改善しない。

当初は1時間くらいは開脚を続ける。壁やふすまのつっかえを利用して足を左右に開く。

当初は非常に辛く、開脚を終了した直後は膝の裏が尋常ではない張りで痛く、腰も辛いはずだ。日々続けて、ある山を越すとそれからは比較的楽になる。そこまでは非常に辛いが、椎間板ヘルニアの辛さに比べれば、屁でもない。

何十年の積み重ねで悪くなってきた腰痛を、さっと治そうなどというのは甘い。コツコツしかない。これは私の人生訓でもあるのだが、どんな事でも「コツコツに勝る良い戦略はない」。さっと仕上げたものは、さっと崩れ去る。

私は最初の半年間程度は、かなり無理やり開脚を攻めに攻めて、最初の山を越してだいぶ開くようになったが、それでも座ってすぐに開くわけではなく、時間をかけて開いていくと開くという程度だった。それを3年ほど続けて、だいぶすっと開くようになった。

それに合わせて、椅子に座ったりした後に立ち上がった時にも、腰がすっと伸びるようになった。腰痛持ちなら分かるだろうが、腰痛患者は椅子に座ったりした後、腰が伸びるのに時間がかかる。開脚で足が開くレベルに合わせて、日常生活での腰の伸びもスムーズになっていった。

腰痛持ちの人には、膝を伸ばして床に座る事自体が怖いはずだ。しかし、攻める。攻めなくては「ジリ貧」間違いなし。

ただし、膝を伸ばした状態で左右の足を閉じて床に座るのはやってはいけない。「膝を伸ばして足を閉じ前屈するストレッチ」をする人や、そのストレッチを勧める人はたくさんいるが、左右の足を閉じた状態で床に座り前屈をするのは腰に最悪だ。

バレリーナのようにグルグル前後に足が抜けるような股関節のやわらかい人ならどんな姿勢でも問題ないが、股関節の硬い腰痛持ちが左右の足を完全に閉じた状態で膝を伸ばして前屈をすれば、筋肉を伸ばしているのではなく、丸まっている腰、つまり腰椎自体を引き伸ばしてしまって椎間板が飛び出てくる

前屈は腰を丸めて倒すのではなく、太ももの付け根から骨盤ごと倒さなければならない。

股関節の硬い腰痛患者は、「骨盤ごと倒す」という動作が出来ないので、前屈をする事よりも「開脚が出来るようになる事」が先なのだ。

この状態を言葉で表現するのは難しいのだが、上級者のお尻をじーっと見たり、触らせてもらえるのなら、そうしてみて欲しい。まさに、「お尻が割れている」。前屈すると、腰はほとんど丸まらず、骨盤の底が後ろに飛び出すように出てくる。太ももの付け根から、折りたたみ式携帯電話の要領で折りたたんだ状態になる。これなら前屈しても、腰には負担がかからない。

股関節の硬い人の前屈は、お尻(骨盤)の向きは変わらず、腰を丸めて前屈しようとして、腰に最悪の負荷をかけてしまっている。

ストレッチと言われる類のものは、筋肉を伸ばしているのであって、椎間板といったような関節を繋ぐものを伸ばしているのではない。椎間板を引き伸ばせば、避け、飛び出し、椎間板ヘルニアになってしまう。骨を伸ばすのではなく、その周辺にある筋肉を伸ばす(伸ばすというより、癒着した筋肉を剥がす)事を意識して考えなければならない。

腰痛持ちが床に座って膝を伸ばす時には、左右の足を大きく開く方が楽だし、そうしなければ、腰にとって非常に危険だ。

もちろん、床に座った時だけでなく、まー腰痛持ちでやる人は少ないだろうが、直立した姿勢からの前屈も同様の理由で良くない。

開脚の訓練は一人でも出来るが、できれば最初はスポーツジムのヨガなどに出て、先生に教わる方が良い。

だいたい「ストレッチ」と呼ばれる類のものは、嘘が多い。ストレッチのような西洋系のものは、体の外側の視点から捉えた思考から考えられており、机上の空論的な話が多い。

私はストレッチと呼ばれるようなものはやらないし、勧めない。ヨガのような体内動作の視点から考えられたものでないと、腰痛持ちには危険だ。

ヨガというと、変な新興宗教のせいで少し近寄りがたいイメージがあるが、スポーツクラブにあるようなヨガなら、宗教とはまったく関係ないので安心して出れるはずだ。

確かにヨガの概念自体が、「自分の体との対話」を重視しているので、宗教っぽい発想もあるのだが、それはヨガに限らずスポーツや学問でも同じだ。何事も突詰めれば宗教的な哲学部分に行き着くものでもあるし、腰と対話をしながらやらないと腰痛持ちには危険だ。体の柔軟性には、私はヨガをお勧めする。

腰痛の人には、足を前に伸ばして座る事自体が腰に負荷がかかるので、この開脚訓練が良いとは信じられないだろうが、私は断言して「良い」と言える。私がひどい腰痛から抜け出した最大のポイントはこれだと断言する。

股関節が硬いと、まっすぐ立とうにも立てない。まっすぐ立っているつもりでも、腰が太もも側に引っ張られて無理しているので、「スーッっと無理なく立つ」という具合にはいかない。股関節が硬いと、常に腰椎に負荷をかけた立ち方、歩き方、座り方しかできない。

股関節をやわらかくするだけで腰痛から開放されると言っても過言ではない。

ぎっくり腰や椎間板ヘルニアで動けないという急性状態では、ひたすら寝て痛みが引くのを待つしかないが、比較的普通に歩けるレベルまで回復したら、積極的に開脚をやって攻めの回復に徹する必要がある。

この話が理解できると、

腹筋を鍛えるのは意味が無い。腹筋を使えるようになる事が重要なのだ

という話が理解できる事であろう。

しかも、腸腰筋というのは深腹筋ともいわれ、非常に鍛えにくく、意識しにくい筋肉だ。通常の上半身上げ下げ腹筋トレーニングでは、深腹筋(腸腰筋)は鍛えられない。

深腹筋(腸腰筋。大腰筋)は近年、スポーツでも重要視されている筋肉であるが、アスリートですら近年まで重要視できなかったくらい、鍛えにくく意識しにくい筋肉なのだ。

一般的に言われる「腹筋を鍛えろ」では深腹筋は鍛える事すら出来ず、通常の腹筋トレーニングで腰痛対策には無関係の筋肉を鍛え、柔軟性を奪った筋肉を作り、ぎっくり腰をやるのだから、「腹筋を鍛えろ」なんてのは腰痛患者には余計な忠告だ。

通常の腹筋トレーニングは、太りすぎて腰痛を起こしているといった場合に、痩せるための運動の一環としてやればよい程度だ。